小森さんに用件が7つ溜まっています。

来年の年賀。転居のお知らせ。結婚のお祝い。その結婚式の欠席。先日もらったみかんのお礼。借りた脚立を壊したお詫び。貸した3,000円の催促です。

7枚書けば済みますが、同じ差出人のはがきが7枚同時に届くと、人は何かを疑います。1枚にします。はがきは1通85円なので、595円が85円になります。

問題は私の字です。私の字は1文字およそ18ミリ四方あります。細いペンを使っても18ミリです。はがきには縦に8字、4行しか入りません。1枚32字です。

32字に7用件は並びません。混ぜます。

以下、定型文どうしを1つの文に溶かす作業を乳化、溶けずに文が2つに見えるものを分離と呼びます。11月3日、祝日、13時に開始しました。

13:10 No.1 年賀×督促

混ぜました。

謹んで新春のお慶びを申し上げるとともに、三千円をお返しください。

32字ちょうどです。用件2つで満杯になりました。読点のところできれいに上下に分離しています。だめでした。

13:35 No.2 年賀×督促(煮詰め)

煮詰めました。

謹賀三千

4字です。濃度は高いです。ただ、紙に書いて眺めると、三千回お祝いされている感じしかしません。請求の力がありません。小森さんが喜ぶだけです。だめでした。

14:00 No.3 祝い×欠席

おめでたく欠席いたします。

13字です。分離はありません。乳化は完全です。自分の欠席を喜んでいる人ができました。だめでした。

14:20 No.4 転居×お詫び

このたび脚立を破損し、下記へ転居いたしました。

23字です。夜逃げです。実際は駅に近いところへ移っただけです。だめでした。

脚が曲がった脚立の踏み台にみかんが1個のっている

15:05 No.5 お礼×督促

もらったみかんは12個です。もう全部食べました。この事実を督促に溶かします。駅前の八百屋で似たみかんが1個40円だったので、12個で480円です。

結構なみかん、内入れとして受領しました。残金二千五百二十円です。

32字です。お礼がどこかへ行きました。だめでした。

ただ、ここで困ったことが起きました。みかんが金額を持ったので、ほかの用件も金額を持ち始めました。脚立はレシートが残っていて6,980円です。壊したのは私です。結婚祝いは、欠席なので1万円を包むつもりでした。同じはがきに混ぜる以上、差し引かないと文がつながりません。

項目金額
貸した分+3,000円
みかん−480円
脚立−6,980円
ご祝儀−10,000円
差引−14,460円

3,000円もらうためのはがきが、14,460円払うためのはがきになりました。

検算しました。合っていました。みかんの皮をしばらく見ていました。16時まで寝ました。起きても14,460円でした。

16:10 No.6 全部×乳化剤

文どうしをつなぐ強い薬品があります。「つきましては」です。どんな文の後ろにも置けて、次に何が来ても許されます。全用件に投与しました。

謹んで新春のお慶びを申し上げます。つきましては、転居いたしました。つきましては、脚立を壊しました。つきましては、ご結婚おめでとうございます。つきましては、欠席いたします。つきましては、みかんをありがとうございました。つきましては、三千円を返してください。

7用件が初めて1つの液体になりました。127字です。はがき4枚です。「つきましては」だけで42字あり、乳化剤だけではがき1枚を超えました。だめでした。

あと、14,460円が反映されていません。3,000円を返してくださいと言っている場合ではありません。

16:50 No.7 全部×蒸留

字数を食っているのは、かなです。かなを飛ばして、漢字だけ集めます。

鍋から管を伸ばしてはがきにしずくを落とす装置の落書き

蒸留しました。

謹賀転居祝婚欠席
蜜柑感謝脚立陳謝
貸金相殺当方不足
金一四四六〇円也

8字4行、32字。7用件すべて入りました。1用件あたり約4.57字です。

七言絶句より1字多いので、八言絶句と呼びます。起で祝い、承で謝り、転で計算し、結で金額が来ます。結がいちばん重いです。

読み返しました。新年を祝われ、転居され、結婚を祝われ、欠席され、感謝され、謝られ、最後に1万4千円が来ます。「当方不足」が、こちらが払うという意味に読めるかどうかは分かりません。私にも少し分かりません。だめでした。ただ、もう字数がないので、これを出します。

17:40 投函

新住所は表の差出人欄に書きました。ここも18ミリなので、小森さんの名前の上に乗りました。

ポストに入れて、帰り道で振込先を聞いていないことに気づきました。用件が1つ増えました。

評価表

番号混ぜたもの字数入った用件評価
No.1年賀×督促322分離
No.2年賀×督促(煮詰め)42三千回祝われる
No.3祝い×欠席132欠席を喜ぶ人
No.4転居×お詫び232夜逃げ
No.5お礼×督促322支払いが逆転
No.6全部×つきましては1277はがき4枚
No.7全部×蒸留327投函済み、振込先不明

はがき代の節約は510円です。受け取る予定だった3,000円が14,460円の支払いになったので、差は17,460円です。

失敗作はNo.7までです。次の振込先の件は、年賀のお礼と混ぜます。